年始に社長と書初めをしたとき、「この墨、実は現場でも使うんだよ」と聞いたのが印象に残っていました。
習字の墨が現場で?と半信半疑だったのですが、先日クリニックになる予定の現場をお手伝いさせていただいた際、その意味がようやく分かりました。
今回体験したのは“墨出し”という作業。
図面に描かれている寸法や位置を、実際の現場空間に写し出していく工程で、次の工程の方がその線を頼りに作業していくという、とても大切な役割を持っています。
床に引かれた一本の線が、壁や扉の位置になり、棚の高さや配線のルートになり、結果的に建物全体の完成度に繋がると考えると、その線が持つ意味の重さに驚きました。
書初めのときと違うのは、現場では朱色の墨を使ったということ。
今回の現場では朱色の墨が使われていて、図面や状況に応じて色を使い分けることもあるのだとか。書初めの墨とは違う用途で選ばれていることが面白く感じました。

道具もまた非常に面白く、ぱっと見はアナログなのに、仕組みは合理的。
糸や重りの使い方、墨の出し方、どれも無駄がなく、知恵が凝縮されているようでした。
こういう道具を考える人は本当にすごいなと改めて感じましたし、長い時間をかけて改良されてきたことが分かるものばかりです。
墨出しは1人でもできるそうですが、今回は社長と2人で協力しながら作業。
真っすぐな線を引くために確認しあったり、位置を微調整したり。
息が合う瞬間や、図面通りの形が浮かび上がっていく瞬間に、ものづくりの楽しさとチームで工事が進んでいく面白さを感じました。
線が完成したときにはちょっとした達成感があり、それを見て次の工程に入っていくことを考えると、線一本の責任の大きさにも気づきました。
そして何より感動したのは、書初めで墨をすって文字を書いていたときと同じように、手を動かして作業しているうちに頭が整理されていく感覚があったこと。
用途も場所も違うのに「手を使う」「線を引く」「形にする」という行為が、人の思考と集中に作用していることが面白く感じました。
建物づくりの現場に少しでも触れると、完成した空間を見るときの視点が変わっていきます。
これから完成していくクリニックを見守れることも、なんだか嬉しい気持ちです。

