年始の事務所で、社長と書初めをしました。
墨の香りが静かに広がり、筆を動かす時間は、どこか特別です。
今回使った墨は、実は社長が仕事で扱う墨。
普段は図面や現場で、寸法を示したり境界を記したり、
“形の基準”をつくるために使われています。
その墨で文字を書くと、線の出方も筆圧もどこか気持ちいい。
仕事の道具が、年始には文化の道具へと切り替わる瞬間でした。
社長が筆を動かしながら
「手を動かすと頭が整理される」と話していましたが、
書くという行為は“考えを形にする”ことそのものなのだと感じました。
社長が書いたのは「積善成徳」。
善い行いの積み重ねが徳となり、いずれ形となって返ってくるという言葉です。

わたしが書いたのは「笑う」「運動」「陰徳善事」など。
陰徳善事は、誰にも見られていないところで良いことをするという意味です。
偶然でしたが、どちらの言葉にも
“見返りを求めない積み重ね”という共通点がありました。
内装の仕事も、実はこの積み重ねです。
図面に載らない配慮、段差の消し方、手触り、素材、動線、光…。
お客さまが気づかなくても快適に過ごせるように、
裏側にたくさんの気遣いが宿っています。
美容室の内装では、特にそれが顕著です。
働く人の動きや道具の場所、座る人の視線、
鏡越しに見える背景まで、すべてが“見えないデザイン”です。
墨で線を引く仕事と、墨で字を書く文化。
どちらも“形にすること”で世界が少し整います。
書初めは、わたしたちの仕事が大切にしている美意識を
もう一度思い出させてくれる時間でした。

